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トピックス by村本邦子

2012.06.25
2012年6月23日 「慰霊の日」に沖縄を訪れて

 平和学会があって、久しぶりに沖縄を訪れた。最後に来たのはモノレールができる前だったから、十年ぶりくらいなのではないだろうか。建物も街の雰囲気もなんだかずいぶん変わったような気がする。高さの高い新しい建物が多くなっている。

 折しも「6・23慰霊の日」。よく知らなかったが、沖縄戦を指揮した第32軍牛島満司令官が自決したとされる6月23日を、県が1974年に「戦没者追悼、恒久平和を希求する日」と条例で定め、1991年に正式な休日となったそうだ。沖縄戦では、激しい地上戦で子どもを含む住民9万4千人、日米軍人含め、20万人以上が犠牲になった。4人に1人が亡くなったというのだから、沖縄の人々がどれほどの被害を蒙ったかは想像を絶する。

 慰霊の日には、糸満の摩文仁の平和祈念公園で沖縄前線戦没者追悼式が開催され、県内外、国内外から5500人もの人々が参列した。学会プログラムの関係上、追悼式には出席できなかったが、担当の分科会を終えるや否やタクシーを拾って、平和祈念公園に行った。タクシーの運転手さんの話では、この日は、早朝からたくさんの人々が家族で祈念公園を訪れ、ピクニックのようにお弁当を拡げてゆっくりと過ごすのだという。「ピクニックのように」というのは光景としてイメージしにくかったが、かつて経験したバリの村の火葬ガベンで出店が並び、子どもたちが風船や飴を持ってお祭りのような雰囲気だったことを思い出す(/muramoto/2007/08/000197.php)。

 行ってみると、たしかに、家族、それも多世代からなる拡大家族が食べ物やお酒やお茶を慰霊碑の前にたくさん並べて捧げ、平和の礎(いしじ)に刻まれた名前を指でなぞりながら祈っていた。そして、それぞれに芝生にお重を拡げ、歓談しながら食べていた。以前、沖縄のお盆を経験したことがあるが、お盆には死者が家に帰ってきて、家人は死者に話しかけ、たくさんの食べ物やお酒を捧げる。お盆に死者が戻ってくるというのは、私の子ども時代の記憶にもあるが、それにしても、死者の存在をリアルに実感する。沖縄戦の遺族たちは、「沖縄戦の遺族」というつながりのなかで、この日、青い空と海が広がる緑豊かな美しいこの空間に集い、あの世に逝った人々と再会し、一緒に同じ食べ物を食べ、語り合うことで、家族のつながりを確認し、平和を誓うのだろう。大きすぎて抱えきれない歴史と現在のトラウマを抱えながらも、逞しくしなやかに生き抜く人々の知恵には感嘆させられる。

 また、「パレットくもじ」の歴史資料館では、ちょうどWAMとの共催で「沖縄戦と慰安婦展」をやっていて、朝いちばんに行ったが、朝からたくさんの人々が来ていることに驚いた。いくらか会話が耳に入ってきたが、展示と自分の記憶(体験や親や祖父母から聞いた話)を照らし合わせているようだった。沖縄の人たちにとっては、これらの内容がそのまま自分のこととつながっている感覚を持っているのだろう。本土で展示をやっても、これほど興味を持って人々がくるかどうか。本当はそうではないのに、多くの人はこれらの内容が自分のことではなく他人事だと思っているのだろう。

 学会では、基地と原発をテーマにしたシンポジウムをのぞいたのだが、NHKの七沢潔さんという人が「メディアは構造的暴力の一部である。そして、視聴者は無自覚なままそれに加担している」と言った。森口豁さんは「本土のメディアは沖縄の人々が死ぬのを待っている」と言い、七沢さんは「大手メディアは原発事故の直後しか報じない」と言っているそうだ。そんなこともあって、今日は「沖縄タイムズ」と「琉球新報」を買って隅々まで読んでみたが、この日の新聞は、慰霊の日とオスプレイ(米空軍の輸送機)がほとんどを占めていた。加えて、沖縄タイムズ(2012年6月24日朝刊)の社説には、原子力基本法に「我が国の安全保障に資するため」という目的が密やかに追記されたことへの批判が書かれていた。知らなかった私は仰天した。本土でこれらのことはどれだけ報じられているのだろうか。

 平和祈念資料館や慰安婦展を見て、いろいろと新しいことを学んだ。沖縄本島だけでなく、ダイバーには馴染の座間味や渡嘉敷、西表、宮古などのことも。「沖縄タイムズ」に紹介されていた証言では、摩文仁(激戦地だった平和祈念公園があるところ)のあたりでは、子どもの頃、海に潜ったら、ずいぶん長い間、そこかしこに白骨が見えたそうだ。たくさんの人々の無念さや苦しみに思いを馳せながら、構造的暴力の一部になることへの抵抗を模索したい。

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