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FLCスタッフエッセイ

2015.03.29 カウンセリング
カウンセリングの窓から~思春期の娘と母〈母編〉

                                            西 順子

 「いったい何を考えているのか、わからないわ」「今まで、とってもいい子だったのに、どうなってしまったのかしら」・・、思春期になった娘の変化に戸惑い、どう対応したらいいのかと途方に暮れた母親から、よく相談をお受けします。
 思春期の娘の変化は、「門限を守らない」「反発する」「何も話してくれない」という行動から、摂食障害、不登校、引きこもり、親への暴力、リストカットなど心身の症状となって現れることもあります。
 母親から見て、危なっかしくて心配な思春期の娘には、まだまだ親の「助け」が必要ですが、思春期を迎えた娘への「愛」には、相手から離れることが必要になってきます。
 ここでは、母親が思春期の娘を理解し、「離れる」ことの喪失を受け入れ、母親として自分自身を成長させるヒントを提供できればと思います。

思春期の娘と母親
 思春期の娘たちにとって一番大きな仕事は、親とは違う自分だけのアイデンティティを獲得することです。そのためには、自分の信念や価値観や抱負をもち、自分らしい生き方を見つけ、家族の保護から離れて自分だけで生きていける自信を身につけることが必要です。そして、「私は誰か」という人生の根源的な問いに、自分なりの答えを出さなければなりません。

 『母は娘がわからない』の著者イブリン・バソフは、「こうした仕事を(娘が)やり遂げるためには、自分の成長を脅かす存在から離れる必要がある。そしてほとんどの場合、母親たちこそ彼女の成長を脅かす、もっとも大きな存在なのだ」と言います。母親像とは、よい意味でも悪い意味でも圧倒的な力を含んでいるものです。思春期の娘たちは、守ってほしい、という強い内的欲求と闘いながら、母親との間に精神的距離を置き、その影響から少しずつ離れていこうとしています。

 「蝶」になる前に「さなぎ」の時期があるように、娘が自分の周りに防御壁をつくり、母親を遠ざけようとすることがあっても、それは成長のために必要な時間です。内面にエネルギーを注ぐ時間です。娘が完全に大人になり自分に自信をもてるようになったとき、娘は安心して母の元に戻り、大人の女性同士として、つきあうことができるようになるでしょう。

「母親」を越えて成長する 
 娘との強い結びつきを緩め、娘との間に距離をおくことは、母親にとっては一種の喪失の体験です。母親としての役割とその関係を失うことで、「空の巣抑うつ」といわれる空虚感とうつ状態に陥いることが知られています。喪失を受け入れることには痛みを伴いますが、ライフサイクルの変化を受け入れ、喪失と向き合い、悼む作業が必要です。
 また思春期の娘との「子離れ」は母親にとって成長の機会です。バソフは、「女性の人生において、智慧や成熟や人生の意味を獲得するうえで、これほど大きなチャンスはない」と言います。

 では女性は、「子離れ」という喪失の体験をどのようにして乗り越えていくことができるでしょう。ギリシャ神話に登場する母なる女神デーメーテールの物語から、喪失を乗り越えるためのエッセンスを紹介しましょう。

母娘の物語
 母なる女神デーメーテールは穀物の女神として、および乙女ペルセポネーの母親として崇拝された女神です。もっとも有名なのは娘ペルセポネーの誘拐とデーメーテールの反応をめぐっての神話です。娘がある日突然、冥界のハーデースに誘拐されてしまいます。デーメーテールは娘を不眠不休で捜しますが見つからず、ついに失望して一切の女神の仕事をやめてしまいます。その結果、地上の穀物が育たなくなり飢饉がおそって人類が滅びそうになりました。とうとうゼウスは黙って見ておれなくなり、使者をハーデースのもとに派遣し、娘を地上に帰還させました。デーメーテールは娘と再会してから、大地に豊穣と成長を回復させました。この神話が下地となり、エリウシースの秘儀が起こりました(二千年以上にわたって古代ギリシャの神聖かつ重要な宗教的儀式)。

自分自身のよい母親になる
 子どもに注いできた世話とエネルギーを、自分自身に焦点を合わせて行うことを学ぶ必要があります。自分の母親になり、自分自身の欲求やニーズに応えてあげれるよう行動することが大切です。「これが本当に今自分がしたいこと」と自分に尋ね、自分のために時間を使いましょう。

「母であること」を越えて意識を拡大する
 自分の生活のなかに、「母親」とは違った人間関係を意識してつくる必要があります。子ども抜きで夫や友人と外食をする努力をしたり、ジョギングや瞑想、趣味といった自分だけの活動の時間をとるのもよいでしょう。また、仕事を再開したり、社会活動に参加するなど社会とつながる「意味ある何か」を見つけることもよいでしょう。


抑うつからの回復
 これまで生きがいを与えてくれていたものが無くなったとき、デーメテールは、悲しみにくれて気が滅入り、抑うつ状態に陥りました。デーメテールの物語では、抑うつからの回復と成長には、二つの解決策があります。一つは、誰か他の人を愛し育てることです。もう一つは、「若さ」の元型が戻ってくることです。
 時が過ぎ、涙と怒りの後、何かが芽生えるような感情が動き出します。もう一度生命力と慈愛にあふれる自分にかえっているのに気づきます。苦しみの時期から回復した女性は、智慧と精神的な理解力が増しています。  
                                   『女はみんな女神』より

 思春期の娘と適切な距離をとるのが難しいとき、母自身も母親との関係で適切な距離をとれずにきたということもあるでしょう。そのような場合、自分自身と母親との関係を整理し直し、過去の喪失を悼むことが必要です。母親が喪失を受け入れ成長することは、娘の自立の基盤として娘を支えることでしょう。
 

 ギリシャ神話の女神デーメーテル(母)と女神ペルセポネー(娘)の物語では、それぞれが喪失と苦しみを乗り越えて成長します。季節にはサイクルがあり、冬のあとに春が訪れるように、人も一定のパターンに従って変化していきます。
 女性が母と娘の関係に悩むとき、カウンセリングでは、それぞれが喪失と苦しみを残りこえて成長し、新しい自分と出会うお手伝いができればと思っています。女性ライフサイクル研究所では、娘と母と、それぞれにカウンセラーがついて進めていきます。なお、年齢等に応じて、娘のみ、母のみでお越しいただく場合もあります。詳しくはお尋ねください。


参考文献:
『母は娘がわからない~子離れのレッスン』イヴリン・バソフ著、村本邦子+山口知子訳、創元社。
「9章・穀物、養育者、母の女神デーメーテール」『女はみんな女神』ジーン・シノダ・ボーレン著、村本詔司+村本邦子訳、新水社。

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2013年7月FLCエッセイ「思春期の山を乗り越える」
2010年3月FLCエッセイ「巣立ちの春」

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